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zoom RSS 折々の雑感112 プログレ聴き直し大会 イエス『こわれもの』

<<   作成日時 : 2016/11/20 01:15   >>

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 イエス『こわれもの』(『Fragile』)を聴き直してみました。

 『SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜』という音楽番組があります。BS−TBSで毎週水曜の23時から放映されています。この番組は2007年に始まったらしい。番組を知り、よく見るようになったのは1年前くらいからです。
 往年の名曲やヒット曲(洋楽中心)からある一曲を取り上げ、その曲が生まれたきっかけや制作過程を関係者の証言をもとに明らかにするという番組です。綿密な取材と関係者への細部にわたるインタビューが売りで、曲の時代背景や制作時のエピソードなど初めて聞く内容も多く、なかなか面白いです。
 取材を受けるのは、歌手本人のほか、作曲者やプロデューサー、録音に参加したミュージシャンなど。歌い手本人よりも制作に関わった人たちが登場することのほうが多い。インタビューの場面が大半で、音楽番組としては地味ですが、洋楽好きには楽しめる内容です。
 番組は終始、落ち着いたトーンで進み、番組の最後に、その日に取り上げられた曲がフルコーラスで流れます。曲が終わった後の余韻がいい。このとき、英語の歌詞とその日本語訳が表示されるのもいい。「この曲は、こんなことを歌っていたのか」とあらためて知ることができます。この番組を見た後では、その曲の聴き方が変わる。より深く味わえるようになると思います。 

 11月2日の放送は、イエスの「ラウンドアバウト」(「Roundabout」)でした。イエス4作目のアルバム『こわれもの』(1972年)の1曲目に収録されている曲です。
 これを機に『こわれもの』を聴き直してみました。放送を見た後の10日間ほど、通勤途中の車のなかで繰り返し聴きました。

 私がイエスを知ったのは、高校2年のころ(1983年?)。同時代ではありません。83年当時、イエスというバンドは存続していましたが、『こわれもの』や『危機』(『Close To The Edge』1972年)時代のイエスとは一部メンバーが異なり、サウンドもまったくの別物でした。『ロンリー・ハート』(『90125』)がヒットしていたころですね。
 当時、NHKFMで『軽音楽をあなたに』という番組が放送されていました。その番組で、70年代に活躍した大物ブリティッシュ・ロックバンドというような特集があり、レッド・ゼッペリンやディープ・パープル、キング・クリムズンらとともにイエスが紹介されました。
 ここで、キング・クリムズンとイエスを知って以来、ロックのなかでもとくにプログレッシブ・ロックを好んで聴くようになりました。変拍子や転調を多用する複雑な展開と美しく重厚で、かつ荘厳華麗な音の世界にすっかり魅了されてしまったのです。

 この傾向を決定的にしたのが、大学の寮で同室となったTさん(2学年先輩)との出会いです。Tさんは、マニアといえるほどのプログレファンで、なかでもユーロ系、とくにイタリアものを得意としていました。部屋にいるときはいつもプログレのレコードやカセットテープをかけていました。
 同室のため否応なしにイタリアン・プログレッシブ・ロックが耳に入ってきます。米英の有名なバンドしか聴いていなかった私には、イタリア語の響きは奇妙に聞こえ、ロックでありながら米英のそれとはどことなく違った雰囲気を持つ楽曲に最初はとまどいました。また、いくら自分もプログレが好きとはいえ、自分の知らない曲ばかりを延々と聞かされてはうるさく感じることもありました。
 けれど、たまに交わすTさんとのロック談義は面白くもあり、Tさんのレコードコレクションの膨大さと知識の豊富さには舌を巻きました。Tさんの本棚にはプログレ専門誌(『マーキームーン』)も並んでいて、時おり借りて読みました。掲載されているのは、まったく知らないバンドやミュージシャンの記事ばかり。ちんぷんかんぷんでしたが、紹介されているレコードの幻想的なジャケットに「どんな音がするのだろう」と興味を覚えました。こうした環境で1年を過ごすうちに、しだいにプログレッシブ・ロックやユーロ・ロックに傾倒していくことになります。

 就職してお金が自由に使えるようになると、プログレのCDを買い集めるようになります。ちょうどレコードからCDへと移行した時期とも重なり、アナログ盤の旧譜が次々とCD化されていました。マニアックな香りのするレコード店を見て歩くのも、通な気分に浸れたし、宝探しみたいで面白かった。
 プログレのCDはジャケットのアートワークも魅力的でした。幻想的なものや耽美的なもの、気味悪く怖い感じのするものなど、どんな音楽かとそそられるものが多かった。
 マイナーな世界を探求する秘かな喜びとでも言えばいいのか。純粋に音楽を聴くこととは別の理由で、好奇心や収集癖を刺激され、プログレCD集めにいそしみました。(プログレだけでなくUKオルタナティブ系やハードロックなども買っていました)キングレコードのヨーロピアン・ロック・コレクションやエジソンのプログレシリーズをはじめ輸入盤や日本のインディーズバンドのものなど色々と買いました。
 しかし、数あるなかには「なんだかなあ」という感じの作品もありました。結局のところ、長年、継続しての鑑賞に耐えうる作品というのは、レコードガイドや音楽雑誌などで定盤や名盤として評価されているものに限られてくるような気がします。やはり多くの人たちが「いい」と感じ、時代が変わってもなお、聴かれ続けている作品は、相応に秀逸であり、人々を引きつける魅力にあふれています。

 イエスの『こわれもの』は、間違いなくそうした名盤に該当します。

 唐突ですが、ここで山下達郎の言葉が思い出されます。あるラジオ番組で、おおむね次のようなことを語っていました。

 古い曲にはいい曲が多いとよく言われるが、いまも昔も、つまらない曲、ありきたりの曲というのはあった。時間が経過し、時というふるい(篩)にかけられて、本当にいいものだけが厳選されて現在まで残っている。だから古い曲がいいと感じられるのだ。

 「時というふるいにかけられていいものだけが残る」という表現は、さすがにうまい言い方で、記憶に残りました。なるほどと納得させられました。

 さて、『SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜』で知り得た情報をふまえて、あらためて『こわれもの』を聴き直してみましょう。

 ちなみに私の所有している『こわれもの』は1998年のデジタル・リマスター盤CDです。これを買うまでは、原盤は持っておらず、アナログレコード(借りたもの)をコピーしたカセットテープで聴いていました。このカセットをいま聴くと、こもったぼんやりとした音で聞くに堪えない。いま思うとアナログレコードを買っておけばよかったなと猛烈に後悔している作品であります。

 イエスの一番の魅力は、楽曲における複雑な構成でしょう。各楽器の様々なフレーズが絡み合い融合しながら曲がドラマチックに展開する。そこに重厚で美しいコーラスが加わる。それでいてジョン・アンダーソンが歌うメロディはポップで親しみやすい。ハードロックのスピード感も併せ持つ。
 こうしたイエスの魅力について評論家・ミュージシャン諸氏の言葉を借りてみましょう。私がプログレをよく聴いていたころの音楽雑誌や書籍からの引用です。ゆえに古いものばかり。ですが、いま読んでも的を得ていると思います。

複数のテーマ(フレーズ)がイエスの特徴とも言えるモザイク状に組み合わされ、緊張感が最後まで続く。時間の流れを感じさせない。動から静へのダイナミックな転換も効果的だ」(1)

彼らの音楽は複雑な構成をとっていながら、とてもとっつき易い。長い曲でも手を変え品を変えて楽しませてくれて、決して聞く者をあきさせない。そんな所が彼らの人気の秘密である。いわば高級イージー・リスニング・ロックといったところだ」(2)

彼らが試みたのはアレンジ・ワークの方で、中心となるべきフレーズを変奏して行く過程で、結局全員が原曲から離れてしまい、それゆえに複雑に聞こえるという効果を出した。(中略)彼らの楽器演奏技術はロック・バンドとしては超一流の部類で、それゆえ演奏における自己主張も強力である。通常のバンド形体の『バッキング』部がほとんど無く、二重三重に交錯する各楽器のリード・パートを解読するのは、YESの音楽を聴く時の醍醐味である」(3)

メンバー全員がすごいテクニシャンなのに、長いソロらしきものはぜんぜんなく、逆にいうと曲の最初から最後まで全員がインプロヴィゼイションしていて、それが見事にオーケストレイションされたアンサンブルになっている。リズムとフレーズが何本も絡まってうねっている感じ」(4)

 このような複雑な構成の楽曲はいかにして作られたのか? これに関し、リック・ウェイクマン(キーボード)の談話(『SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜』より)が興味深い。ウェイクマンは『こわれもの』からイエスに参加しています。『こわれもの』制作時の曲作りについて次のように回想していました。

 メンバーと合流した当初は遅々として進まない曲作りの方法に面食らった。
 あるメンバーが担当楽器を奏でフレーズのアイデア、それもごく短いものを提示する。それに合わせて他のメンバーがそれぞれの楽器で別のフレーズを重ねてゆく。
 その作業を繰り返すと、いくつもの曲の断片ができる。しかし、曲全体の構成を始めに決めているわけではないので、一曲としてなかなかまとまらない。試行錯誤の繰り返しでやたらと時間がかかる。
 曲の断片ばかりがストックされ、「断片ばかりを作っていて、いったいどうやって一曲につなげるのか? いつになったら曲が完成するのか?」との疑問が生じる。その問いを他のメンバーにぶつけると、「それをまとめるのが音大を出た君の役目さ」などと返された。


 『こわれもの』や『危機』に収録されているような複雑な楽曲は、あらかじめ全体の構成や骨格を構想した上で細部を作り込んでいくものと、私は、思っていました。実際はその逆で、細部を緻密に作り上げてからそれらをつなぎ合わせ全体として一曲にまとめていたということになります。「複数のテーマ(フレーズ)がモザイク状に組み合わさった」イエスの楽曲は、このようにして作られていたのです。
 
 この意味でも、イエスの真骨頂は、複雑な構成をもった長い曲といえるでしょう。『こわれもの』は長めの曲(8〜10分)3曲と短い曲(1〜3分)6曲から成っています。このうち大作である「ラウンドアバウト(Roundabout)」、「南の空(South Side Of The Sky)」、「燃える朝焼け(Heart Of The Sunrise)」の3曲は、前述したイエスの魅力を存分に味わえる名曲です。

 私は、とくに「燃える朝焼け」が好きです。この曲の、ドラムとベースによる攻撃的なイントロを聞くと精神が高揚する感じがします。このイントロで用いられたモチーフは、変奏されながら曲中に何度も繰り返し登場します。
 少し前、この曲の一部が自動車(日産ジューク)のCMに使われていました。スピード感あふれるフレーズは、車が走り抜ける映像によくマッチし、車の疾走感をうまく伝えていました。
 この曲を聴いていると、急降下と上昇を繰り返しているような感覚にとらわれます。速度を緩めながらゆっくりと上昇、それにつれて緊張感もしだいに高まる。その緊張が頂点に達したとき、一瞬の静止。そのせつな、突き落されるように一気に猛スピードで下り始める。この曲にはそんな感覚があります。交錯する上昇と下降、それに伴う緊張と弛緩、動と静の転換。こうした感覚に身をゆだねるとき、やっぱりイエスはいいなと思うのです。

 『SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜』のなかのインタビューで、上記3曲以外の小品が作られたきっかけについて、ビル・ブラッフォード(ドラムス)は次のように語っていました。

 『こわれもの』制作時はメンバー間の対立や言い争いが絶えなかった。メンバーの自己主張が激しく、おのおのが自らのアイデアを曲に盛り込むようにと言い張った。そこで、曲作りにおいて、一人一人がリーダーとなるような曲を、それぞれ一曲ずつ作ろうと提案した。この提案は受け入れられた。しかし、リック・ウェイクマンやスティーヴ・ハウ(ギター)は、意図を誤解し、ソロ作品を作ってきた。自分が意図したのは、メンバーそれぞれが主導権を持ったバンドとしての曲を、一曲ずつ作ろうということだった。
 そして自分は「無益の5%(Five Per Cent For Nothing)」という曲を作った。1分に満たない短い曲だが、気に入っている。


 このようにして作られたのが以下の5作品らしい。
「キャンズ・アンド・ブラームス(Cans And Brahms)」(リック・ウェイクマン)
「天国への架け橋(We have heaven)」(ジョン・アンダーソン)
「無益の5%(Five Per Cent For Nothing)」(ビル・ブラッフォード)
「ザ・フィッシュ(The Fish)」(クリス・スクワイア)
「ムード・フォー・ア・デイ(Mood For A Day)」(スティーヴ・ハウ)

 「無益の5%」や「ザ・フィッシュ」は、とにかくかっこいい。「ザ・フィッシュ」はベースのクリス・スクワイア作。この曲に限らず、スクワイアのベースには独特な響きがあり、イエスのサウンドを特徴づけています。一般的なロックの曲では、ベースは一定のテンポでリズムを刻みます。スクワイアの場合、ベースでフレーズや旋律を弾く感じがあり、「骨太」や「分厚い」といった言葉では表現しきれない孤高ともいえる重厚さとうねりが感じられます。
 「天国への架け橋」で、折り重なるアンダーソンの声は、神秘的ですらあります。「ムード・フォー・ア・デイ」でハウが奏でるアコースティック・ギターは、どこかもの哀しく、その響きは美しい。ウェイクマンの作品は、ブラームスの交響曲第4番の第3楽章の部分をキーボードのダビングによって再現したものです。
 これらの小品は、それぞれに個性的で、各メンバーの音楽的背景や曲の好みなどが垣間見えて、その点で興味深くはあります。ただ、バラバラな印象は否めません。ブラームスの交響曲なら本物のオーケストラを聴いたほうが感動するだろうし、ギターソロにしても、アコースティック・ギターの美しい響きを堪能したいのなら、クラシック・ギターやトラッド・フォークなどのCDを聴けばいいとも思います。
 やはり、イエスの魅力は長い曲における複雑な展開と各楽器のアンサンブルであることを、これらの小品やソロ作を聴くことにより再認識させられます。

 最後に蛇足的な情報を一つ。「ラウンドアバウト」とは、ロンドンによくあるロータリー式の交差点のことらしいです。信号機がなく、ラウンドアバウトに進入した車は、くるくる回りながら行きたい方向に方向転換してゆく。このことは『SONG TO SOUL〜永遠の一曲〜』を見て初めて知りました。


(1)「アルバムガイド 変幻自在に構築された黄金期の作品 『Close To The Edge』」山岸伸一(『レコードコレクターズ1989年9月号』ミュージックマガジン1989年)

(2)「イエス イエスソングス」渋谷陽一(『ロック ベスト・アルバム・セレクション』新潮文庫1988年)

(3)「イエス」中野泰博(『マーキー別冊 ブリティッシュ・ロック集成』マーキームーン社1990年)

(4)「絡みあうギリギリのテンションが好き」ポッピー神山(『レコードコレクターズ1989年9月号』ミュージックマガジン1989年)

その他参考 イエス『こわれもの』ライナーノーツ 大森庸雄(1972年)
『ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・プログレッシヴ・ロック』(音楽之友社 1999年)からイエス関連ページ
「SONG TO SOUL」HPより「ラウンドアバウト」(http://www.bs-tbs.co.jp/songtosoul/onair/onair_73.html 2016年11月19日アクセス)

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