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zoom RSS 折々の雑感110 電通社員の過労自殺をめぐって

<<   作成日時 : 2016/10/27 00:04   >>

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 電通社員の過労自殺が労災認定されたという新聞記事(1)を読みました。

 悲痛なできごとや事件は、毎日どこかで起きています。普段の私ならば、そうした日々流される数多くのニュースの一つとしてこの過労自殺の報道を受け止めていたと思います。この記事を目にしたのは、折りしも佐川光晴の二つの著作(『牛を屠る』、『生活の設計』)を読み、その読後感を文章にしていた時でした。佐川の作品を読むと、働くということについてどうしても意識的にならざるをえません。その意味で、未来ある若者が入社後わずか9か月あまりで過労自殺したというニュースは、「いったい何があったのか?」と心に引っかかるものがありました。それでこの文章を書いています。

 電通で女性新入社員が自殺したのは長時間の過重労働が原因だとして労災認定されました。新入社員の若者が自殺したことは痛ましく思います。部署の移動や仕事量の軽減が会社側に聞き入れられないのなら、休む、辞めるなどの選択肢もあったはずで、せめて自ら命を絶つことだけはどうにか防げなかったのか、と、何ともやりきれない思いがします。遺族の方は無念であったと思います。
 なぜこんなことになったのか。記事(2)によれば、仕事量が著しく増加し、残業時間が急増して、うつ病を発症し、自殺したとあります。
 記事(3)には当人によるSNSへの書き込みも引用されています。これらのつぶやきは、長時間労働や睡眠不足によって心身ともに疲弊し、しだいに追い詰められていく状況を伝えています。

 「もう4時だ 体が震えるよ… しぬ もう無理そう。つかれた」
 「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」
 「がんばれると思ってたのに予想外に早くつぶれてしまって自己嫌悪だな」


 パワーハラスメントやセクシャルハラスメントを受けていたことをうかがわせるつぶやきもあります。

 「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」
 「男性上司から女子力がないと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である」

 これらの一連の書き込みを見て、静まりかえった深夜のオフィスで独りパソコンに向かう若い女性の姿がまず頭に浮かびました。しかし、これは、私の甚だしい思い違いであったようです。
 その後の記事(東京労働局などが電通に調査に入ったことを報じる(4))には、違法な長時間労働が全社的に常態化していたと書かれています。「自分も当然のように深夜残業をしている。労基署が入ることは意外とは思わない」、「ここ3カ月は残業が月100時間を超える。何とかしてほしいと思っていた」など、社員の声が載っています。(5)
 電通では社内の飲み会の準備も新入社員たちが担当させられていたといいます。酒宴終了後には「反省会」が開かれ、先輩社員から細かな指導がある、とのこと。こうした「体育会的な乗りの企業風土」(厚労省関係者)が自殺した女性社員の心身にダメージを与えた、と記事(6)にあります。

 このような長時間労働が常態化している電通の体質や風土は改善されなければならないでしょう。しかし、これは電通だけの問題ではありません。企業社会全体がそうなのです。「長時間労働を許容する社会の風潮」(7)が、確かにあります。
 「残業100時間くらいで過労死は情けない」とのコメントをネットのニュースサイトに投稿した大学教授が批判を浴び、謝罪しました。(8) 以下のように記したそうです。

 「月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない。自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」

 「教育者として不適切」、「遺族への配慮に欠け、あまりに失礼」、「こういう人たちが労災被害者を生み出している」などの批判が寄せられ、ネット上で「炎上」したといいます。これらの批判はもっともで、まったくその通りだと思います。ただ、大学教授の立場であのような発言をしたことにあきれはしましたが、ああした意見が出ることに驚きはありませんでした。「こんな考え方をする人も少なからずいるだろうな」というのが正直な感想です。
 ビジネスの世界で成功した人たちの大半は、かの大学教授とおおむね同じような価値観を持っているのではないでしょうか。「自分が有能で、努力を惜しまず働いたからこそ競争に勝てたのだ」との自負があるのでしょう。いじめ問題について「いじめられる側にも原因がある。本人が弱いからいじめに遭うのだ」というような発言がなされることがあります。この論理と似たようなところがあると思います。
 しかし、これは働く側にしても同じことです。経営側に限らず働く側も同様の価値観を有しているところがあります。程度の差こそあれ、「仕事のためなら長時間労働も自己犠牲もいとわない」といった空気が多くの職場にあると思います。「なんだかおかしい」と感じながらも、周囲に同調することが求められる。全体がそうした雰囲気に覆われるなかで、そこから独り抜け出すのはむずかしい。

 こうした社会的風潮を「おかしい、変だ」と感じながらも、回りと同じにしなければならない、会社(社会)が求める人間として行動しなければならない。現代の若者たちは、就職活動の段階から、社会全体を覆っているこうした空気のなかにいるようです。
 『ぼくらの民主主義なんだぜ』(高橋源一郎 朝日新書 2015年5月)所収の「なんだかおかしい」という文章のなかで、高橋は、いまの若者たちが直面する就労をめぐる過酷な現状を憂え、次のように書いています。
 産業構造が変化したいま、3人に1人が非正規労働者である。「正社員」の門は狭くなり、そこに若者たちは殺到する。それに付け込むブラック企業が急増した。
 「『せっかく得た正社員の職』を失いたくない若者の足もとを見て無謀な長時間労働を押しつける」(P131)
 「『シューカツ』の中で、彼らは『仮面』をかぶることを強制される。会社(社会)にとって有益な何かをできる、積極的にしようとしている『何者』か、という『仮面』だ」(P130)
 ここに出てくる「何者」は、朝井リョウの小説『何者』から引いている言葉です。『何者』の登場人物が語る次のセリフが紹介されています。

 「誰でも知ってるでけえ商社とか、広告とかマスコミとか、そういうところの内定って、なんかまるでその人が全部まるごと肯定されてる感じじゃん」

 高橋によれば、就活生たちは、リアルすぎるという理由で、『何者』は読まないのだとか。そうしたリアルな感覚からすれば、東大卒で「でけえ広告」会社である電通に入社するという経歴は、それだけで全人格が肯定された存在として、当の就活生たちに認識されるはず、と、私は想像します。そのような「全部まるごと肯定された」若者が就職したその先に待ち受けていたものが、過労自殺とあっては、就職活動の渦中にある学生が「何でこんなことになるんだろう」とショックを受ける(9)のも当然だろうと思います。

 個人的な経験を書きます。過去の職場を思い返してみても、いまの職場を見渡してみても、残業が悪いという雰囲気はあまり感じません。むしろ、大変であることをぼやきながらも、忙しいことや残業が多いことを自慢するような傾向があります。残業代が増えるという実利的な理由で残業を歓迎する面もあります。それとは別に、残業をたくさんする人はえらい、休日出勤までしてすごい、というような意識がどこかにあるようです。定時で帰ることに何となく罪悪感のようなものを感じてしまう。
 時間内に仕事が終わらないのは、仕事のやり方が非効率だからであり、決してほめられることではない。残業が多いことを誇らしげに話すのは、自分の無能さをさらすことであり、恥ずかしいことである。このような意識が広まらないと「長時間労働を許容する社会の風潮」は改善されないと思います。もし仕事が効率的に行われていて、それでもなお残業が当たり前になっているのであれば、絶対的な仕事量が多い(人員が不足している)か、人員の配置が不適正かのどちらかであって、それは管理する側の問題であり、働く側の責任ではありません。
 強制され嫌々残業するのではなく、自発的に長時間労働をしてしまうといった側面もあります。さらに自ら余計な仕事を作ってしまうということもある。パソコンが普及し、資料作りなどの作業は、ほぼすべてパソコンで行うようになっています。見栄えや装飾に凝った資料を見かけることが昔より増えました。「こんなきれいな資料を作るのにどれだけ時間がかかったのだろう?」などと勘繰ってしまう場面にも時折り出くわします。
 「東京都の職員は午後8時に残業をやめ、退庁する。そんな原則を小池知事が打ち出した」との記事(10)を読みました。こんな言葉が記事に見られます。ある職員(課長職)の言葉です。
 「前任者が作った資料は必ず作り、さらに追加する感じ。自分たちで仕事を増やしているところがあるかも」
 また、自分のプランが採用されたときに感じた快感のために、ついがんばってしまい、いつも深夜残業になってしまうとの話が週刊誌の記事(11)にありました。いい仕事をするために主体的、能動的に仕事に取り組み、その結果として長時間労働を招く。そんな現状がいまの働く現場にはあります。
 このような見方をすると、長時間労働による過労自殺は「強制ではなく自ら進んで長時間労働をしたのだから、死ぬまで働いた本人が悪い」ということになってしまいます。しかし、ここで言いたいことは、強要された残業ではなく自発的で積極的な残業になるのはなぜか? 長時間労働に自ら向う理由は何か? ということです。
 ひとつには社会人としての義務や責任を果たすということがあります。与えられた仕事はきちんとやり遂げる責任があるし、対価(賃金)をもらう以上はそれに見合うだけのことをしなければならない。定時を過ぎてもその仕事が終わらなければ残業するしかない。途中で放り出すわけにはいきません。けれども、ただそれだけの理由なら、要求される最低限のレベルを満たしてさえいればそれでよく、何も苦労してさらなる高みを目指したり、より完璧なものにしようとしたり、新たな要素を追加したりする必要はありません。
 それなのについやってしまうのはなぜか? いろいろな理由が考えられます。なかでも特に私が感じるのは、他者のまなざしや世間(社会)からの圧力です。賃金は別にして自分の仕事に対する評価や承認が欲しいのです。仕事のできばえや成果によって評価されるのが本来のあり方だと思います。ですが、社会が高度に情報化し、産業構造が変化するなかで、作ったモノによって目に見える形で評価される仕事が減りました。成果が実物として見えにくい仕事ばかりが増えています。情報やサービスには際限がない。求めだすと切りがなく、過剰になりがちです。そいうい状況下にあって、働く側に要求されることも、昔より過剰になっていると感じます。
 仕事の成果が見えにくいため、行動や振る舞いによって成果の上塗りをしなければならなくなっています。物事に常に積極的に取り組むだとか、新しいことに挑戦するだとか、そうした姿勢や精神性が強く求められ、ポジティブな人間になるよう強いられる。そして、自ら進んで何事かを成さなければならないと思い込まされる、そのように仕向けられるということになります。
 
 私が働き始めた頃も過労死の問題はありました。ただ、その当時は社会に出て間もない若者が過労死するという話はあまり聞かなかったように思います。厚生労働省がまとめた『過労死等防止対策白書』よると「かつては長時間労働による心臓疾患で急死する中高年社員が多かったが、最近は若手社員が精神的に追い詰められて自殺するケースが増えている」(12)といいます。
 総じて、いまの若者が働く環境は、私が若者だった時代よりも、ずっと厳しくなっていると感じます。

引用(文字色グレー部分)および参考
(1) 「電通社員の自殺 労災認定」(2016年10月8日付 朝日新聞)
   「時間外労働月100時間超す 社内飲み会後も『反省会』」(2016年10月8日付 朝日新聞)
   「社説 過労自殺根絶 企業も国も問われる」(2016年10月12日付 朝日新聞)
   「電通新入社員『過労自殺』 労基署認定 残業月105時間」(2016年10月8日付 毎日新聞)
(2)(3) (1)の(2016年10月8日付 毎日新聞)
(4) 「労働局、電通の立件視野 過労自殺受け立ち入り調査」(2016年10月15日付 朝日新聞)
   「時時刻刻 長時間労働 常態化か 電通に労働局立ち入り」(2016年10月15日付 朝日新聞)
   「電通本支社立ち入り 労働局長時間残業横行疑い」(2016年10月15日付 毎日新聞)
   「クローズアップ2016 過酷労働風土にメス 新入社員自殺 電通に立ち入り」(2016年10月15日付 毎日新聞)
   「電通子会社も調査 労働局 長時間労働解明へ」(2016年10月19日付 朝日新聞)
(5)  (4)の「時々刻々…」(2016年10月15日付 朝日新聞)
(6)  (4)の「クローズアップ2016…」(2016年10月15日付 毎日新聞)
(7) 「社説 電通の過労自殺 若者の命すり減らすな」(2016年10月14日付 毎日新聞)
(8) 「電通社員自殺報道で拡散…『炎上』 『残業100時間で過労死、情けない』大学教授が投稿」(2016年10月12日付 朝日新聞)
   「残業100時間くらいで過労死情けない 教授 投稿し謝罪 武蔵野大」(2016年10月12日付 毎日新聞夕刊)
(9) 「就活臨む学生 自衛策を工夫 ブラック企業どう見極め?」(2016年10月15日付 朝日新聞)
(10) 「ニュースQ3 『残業ゼロ 午後8時に退庁』東京都の挑戦」(2016年10月14日付 朝日新聞)
(11) 「過酷電通に奪われた命」(『AERA 2016.10.24号』)
(12) (7)の「社説 電通の…」(2016年10月14日付 毎日新聞)

その他参考
・「過労死の実態 初の白書に」(2016年10月8日付 朝日新聞)
 厚生労働省が10月7日に『過労死等防止対策白書』を初めてまとめた。過労死の実態や防止策の実施状況などを報告する白書。
・「社員自殺前の14〜15年 電通へ是正勧告 労基法違反」(2016年10月20日付 朝日新聞)
 電通が2014〜15年に、社員に違法な長時間労働をさせたとして東京と大阪の労働基準監督署から労働基準法違反による是正勧告を受けていた。
・「電通自殺パワハラ地獄 君の残業はムダ」(『週刊文春 2016.10.20号)

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